溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「キャスターのついた椅子に重いものを持って乗り上がるなんて。転んだら大変なことになっていたんだぞ」

「・・これくらい、その、いつも自分でやっていたものですから」

「できることとできないことがあるだろうがっ」

 怒鳴る真壁に慄きながら、それでも素直に状況を説明する。

「社長もご存じの通り、叔母と二人だったので、なんでも自分でやっていたんです。なのでこれくらい簡単だと・・」

「現に危なかったじゃないか。自分のことを自分ですることは大切なことだ。だけど頼れるものは人に頼っていいんだ。力仕事は男に頼め。いいな!」

「はっ、はいっ」

 椿が大きな声で返事をすると真壁は安堵したように大きな息を吐き出した。

「コーヒーを頼もうと思ってドアをあけたら転びそうな姿を見て驚いたよ。まったく・・もうこんな危ないことはやめてくれ。心臓がいくつあっても足りない」

「・・すみません」

「頼ることは悪いことでも恥ずかしいことでもない。それは助け合いだ。いつでも僕に言ってほしい」

「はい」

「じゃあ、コーヒーを頼むよ」

「わかりました」

 ぽん、と椿の頭に手を置くと、真壁は社長室に戻っていった。

 それを見送り、ほうっと吐息をつく。

(助け合い・・そっか、そうも言えるんだ。今まで自分でやらないといけないって思っていたけど)

 男性の力強い支えがこれほどまでに頼りがいがあるのかと思う。実際の言葉も、頼ればいいというその言葉も。

 なんだか胸の奥が疼く。温かいような、くすぐったいような、照れくさいような――

   ***
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