溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「じゃあ、軽く行こう。十五分後に一階のエントランスで」

「わかりました」

 どうやらさっそく向かうようだ。椿は自席に戻るとカバンを手にしてトイレに向かった。急いで化粧直しをし、エレベーターに乗り込む。一階に行くとすでに真壁の姿があった。スマートフォンを見ている様子が様になっている。イケメンは何気ない仕草でもかっこいいものだとつくづく思った。

「すみません、お待たせしました」

「ん? いや、待ってないよ」

 ふっと優しく微笑み、椿の背に優しく手をあてられ促された。触れられてドキンと心臓が跳ねたが、なにを緊張することがある? と自らを叱責した。

(上司と部下。今から歓迎会。それだけのことよ)

 通り過ぎる女性たちが真壁に見惚れている様子が見えると、なんだかそわそわしてしまう。

(でも、真壁社長が素敵な人だってことは周知のことで、そんな人の傍で働けることは光栄だわ。これもみんな、ゆりこおばさんのおかげ)

 母が入院していた病院で知り合った女性の顔を思い出し、そっと感謝した。

 椿は小学校の途中から私立の女子校に転校して以来、男性との接点がほとんどなかった。学校の先生くらいだ。都内でも有名なお嬢様学校だ。途中で編入など珍しいことではあるが、それはひとえに椿にとっての〝あしながおばさん〟である〝ゆりこおばさん〟のおかげだった。

 ゆりこおばさんはOGだということで口をきいてくれ、さらに学費をすっかり出してくれた。紹介された時には、もうすべてが整えられたあとで、椿はただ転校して通うだけだった。叔母がいるとはいえ、最愛の母を癌で失った椿を援助したいというのが理由である。

 以後、大学までずっとその学園で学んだ。だから男性はなんとなく遠い存在で、ときめくのはマンガや小説、映画やテレビなどの空想上のキャラクターか、アイドルや俳優などのスターだった。

< 37 / 186 >

この作品をシェア

pagetop