溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 椿は一人、うんうん、とうなずいた。

「社長、行きましょう」

 と、その真壁は動く気配がない。あれ? と思って顔を見ると、また不機嫌っぽくなっている。

(なんだろう?)

 小首を傾げて考えるが、思い当たらない。

「椿、何度も催促するのもどうかと思うけど、二人の時は僕のこと、匠と呼ぶように言ったよね。覚えてほしいんだけど」

「あ」

「思い出した?」

 そうだった。

「すみません。なんだか、その、恐れ多くて・・」

「僕が望んでいるんだから応じてほしいね。それに恐れ多いなら僕だってそうだ。椿のこと、許可も求めず勝手に〝椿〟と呼び捨てにしてるんだから」

「でも・・」

「椿。命令だ、なんて無粋なことを言わせないでほしい」

 じっと見つめられ、椿は「はい」と答えるも、顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。

 いくらなんでも恥ずかしすぎる。それに恋人でもない人をファーストネームで呼ぶなどおかしいと思うし。

「ほら、言ってみて」

「・・・・・・・・・」

 わかっていても抵抗がある。言葉が喉に詰まって出てこない。

「そんなにイヤかな?」

 イヤなんじゃない、単純に恥ずかしいのだ。その気持ちをうまく伝えられない。もどかしい。

「すみません。ちゃんとします。雇われているだから」

 そう言って顔を上に向け、大きく息を吸った。それを吐き出し、また大きく吸い込む。そして――

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