溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 ちゃぷん、と水音が反響する。バスタブの中で椿はさっきのことを考えていた。

(わたしのことを知ってると言ってた。冗談じゃなくてホントなんだ。でも・・会った覚えなんてぜんっぜんないしっ)

 とはいえはっきりと初対面の挨拶を交わしていると言われた。自分が忘れているだけ――そう考えて記憶を掘り起こそうとするけれど、考えれば考えるほど否定的な言葉しか浮かんでこなかった。

(そもそもあんなイケメン、覚えてないはずがないし。それなのにまったく出てこないんだから社長のほうが勘違いしているんだわ)

 最後はそこに行き着いた。

 が――椿と呼んで微笑む顔が浮かぶ。

(そんなこともないのかな。人違いであんなこと言うわけないか)

 優しい微笑みとまなざし。見つめられると身も心も蕩けてしまいそうになる。アイドルやタレントを想うような存在が、手を伸ばせば届く距離にいるばかりか、もっとも大切なパーソナルエリアにいることを望まれ、引き込まれた。こんなことが社の女性スタッフたちに知られたら石でも飛んできそうだ。いや、無視されるかもしれない。

 顔を思い浮かべるほどに椿は熱くなる胸の奥を感じた。

(わたし・・好きになりかけてる?)

 そう思った瞬間、椿は気持ちがひどく沈むのを感じた。

 恋してはいけない相手だから――

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