コガレル(番外編)~弥生ホリック~

 店舗に入ると、私のアドバイスが欲しいと確かに言ったのに冬馬君は、意外にもあっさりとネックレスを選んだ。

「どうですか、これ?」

 隣からショーケースを覗き込んだら、可愛らしいものが好きな夢ちゃんに似合いそうなデザインだった。

「良いと思う」

 冬馬君は「じゃ、これにします」そう言って、店員に取り出してもらうと即決で購入を告げた。

「なんか敷居が高いし、落ち着かない」

 カメラを構えてる時は堂々としてるのに、冬馬君の意外な一面が垣間見えた。
 店員さんが包装してる間に聞いた。

「ペアの物じゃなくてもいいの?」

 今は腕を組んで包装を待ってる冬馬君は、私の問いかけに頷いた。

「何か約束してる訳じゃないから俺たち。だから夢は自由」

 どうかな、夢ちゃんなら冬馬君とペアなんて、いかにも喜びそうだけどな。
 宝飾店を出ると店のロゴのプリントされた手提げ袋を手渡された。

「これ、あいつに渡してもらっていいですか?」

「え? 冬馬君、自分で渡しなよ」

「いい子にしてろって、伝えて下さい」

 冬馬君は強引に私に持ち手を握らせた。

「今日付き合ってくれたお礼に、夕飯奢ります」

 渋々預かれば、そんな提案をされた。

「夢ちゃんが浮気の境界線は、異性と二人きりで食事をしたところからだって」

 冬馬君は呆れたように笑った。

「夢なんて、イケメンに声かけられたら、すぐにホイホイついてくだろ」

 確かに夢ちゃん、イケメン好きを常日頃アピールしてる。
 だけどあれは、きっと冬馬君を妬かせる作戦じゃないかな。

 自由なんて言っておきながら、冬馬君本当は不安を感じてるのかも知れない。
 …作戦は地味に効いてるよ、夢ちゃん。

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