コガレル(番外編)~弥生ホリック~

 マンションの前に車をつけた。
 急いでエレベーターで上がって、部屋まで行ってみる。
 玄関前には誰もいない。
 念のために鍵を開けて中に入ってみた。
 いる訳がないのに。
 鍵がないんだから入れる訳がない。

 部屋を出ると、俺の使ったエレベーターは誰かに呼ばれて下まで降りてしまったから、イラつきながら到着を待った。
 一階に降りてエントランスを抜けると車に戻った。
 ハンドルに手を置いて、ふと道の反対側を眺めた。

 外灯に照らされた街路樹。
 夏の終わり、あの木の下で弥生が大雨に打たれてた。
 雨を凌ぐのに一つも役にも立たなかった葉は枯れ落ちて、今は枝の先まで丸裸だ。
 若葉の頃はまだもう少し先だろう。

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