コガレル(番外編)~弥生ホリック~
本当に冬馬君は10分程で現れた。
私は促されて冬馬君のミニバンの助手席に乗り込むと、後ろを振り返った。
そこには撮影機材が所狭しと積んであった。
「シートベルトして下さい」
すぐにそれにしたがった時、圭さんからラインが届いた。
“鍵、受け取った?" って。
“部屋で待ってます"とだけ返信して、既読になったのを確認すると電源を落とした。
「デートなんて言うから、びっくりしちゃった」
スマホをバッグにしまうと、車を走らせる冬馬君の横顔に話しかけた。
数ヶ月前まではよくこうして隣に乗せてもらって取材した。
私は今は一人で動き回ることが多い。
カメラの技術は完璧じゃないけど、もう冬馬君に頼ることはできない。
「真田さんと何かあったんですか?」
「ううん、何も」
冬馬君はチラッと私を見たけど、それ以上追及されることはなかった。
「実は弥生さんにお願いがあって」
「うん?」
「夢が、」
冬馬君は複雑な表情で苦笑いをした。