忘れて、思い出して、知る
聖は栞を指さし、叫んだ。
すると沙也加は栞に歩み寄る。
「栞ちゃんはなにも悪くないよ。すごいねって褒めてあげようと思ったのに、聖君が逃げるから」
彼女はいつもの、幼いイメージを醸し出す沙也加に戻っている。
「サヤさんの褒めるはちょっと行き過ぎのとこあるから。それより、聖君。これありがとう。助かった。このあと近所の人に聞き込みしようと思うんだけど」
栞はそう言って聖にノートを返した。
「近所の聞き込みならできないぞ。これ読んだならわかると思うけど、寺崎大地のせいでこのアパートにはほとんど人が住んでない。昨日も出ていきたいって言うやつがいた。ここ最近あの男、よく暴れるんだ」
「どうして?」
「俺が知るかよ」
聖がそう答えたのに、栞はそれ以上の答えがくると思っているのか、期待の眼差しを向ける。
聖は綺麗な舌打ちをした。
「寺崎苺が犠牲になってたんじゃねーの。俺、時々あいつの様子見に部屋に行ってたんだけど、日に日に新しい傷作ってた」
栞は信じられなくて、開いた口が塞がらなかった。
「正直見てらんなくて。あいつが殺される一週間くらい前かな。俺言ったんだ。ここから逃げろって」
「……言ったの?」
聖は悔しそうに頷く。