忘れて、思い出して、知る
律、宙、遥は八課に配属されて長いため、これには慣れていた。
しかし、少し前に配属された、正義感の強い栞は我慢ならなかった。
栞はギリギリまで耐えたようだが、やはり限界が来たらしい。
会議室の真ん中で足を止め、室内を見渡す。
「いい加減に……!」
「岡本」
栞の怒りの言葉を遮ったのは、意外にも遥だった。
遥の顔には、余計なことをするなと言ったのはお前だ、と書いてあるように見える。
栞は悔しくても、遥の言う通りだとわかり、口を閉じた。
「わざわざすまないな、八課。これが今回の事件資料だ。今日中に解決してくれるとありがたい」
そう言って資料を渡してきたのは、一課長の有澤誠だ。
律たちの間では、出世のことしか考えられない残念な人、と言われている。
「いえいえ。こちらこそいつもすみませんね。みなさんの努力を一瞬で無駄にしてしまい」
律は資料を受け取りながら、誠を挑発する。
「それにしても……相変わらず無力ですね、一課は。こんな簡単な事件に一ヶ月もかけたとは、笑っちゃいます」