人面瘡
今の時代なら、おつねが鬱状態であることは簡単にわかっただろう。


けれど違った。


医者もまた、おつねのアザに怯えていた1人だったのだ。


どうか、このアザも一緒に治してください。


おつねはそう言い、医者に背中のアザを見せた。


それが、いけなかったのだ。


アザを見た医者は悲鳴を上げて一目散に逃げだした。


恐怖心からそのアザが動いたように見えたのだ。


実際は決してそんなことはなかったのに、そう見えてしまったのだ。


逃げ帰った医者はそれを黙っていることができず、色々な人に触れ回った。


あれは呪いだ、妖怪だと言い、街人たちにアザが動いたことを説明した。


そして、その日はやってきた。


人々の目から逃れるように暮らしてきたおつねの元に、大勢の街人たちが押しかけたのだ。


手に手に農機具を構え、おつねに嫌悪感を見せている人々を両親は止める事ができなかった。

< 135 / 204 >

この作品をシェア

pagetop