別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「じゃあウチの部に内線電話でもしてくれれば――」

そこまで言ってハッとした。

…秋が電話に出たら困るから?

秋に知られたらまずいから?

混乱していて肝心なことを忘れていた。

平社員である私が社長に呼び出される理由なんて、秋が絡むことくらいしか浮かばない。

私の考えていることを見透かしたように、晴くんは少し困ったような顔で笑ってから社長室をノックした。

「はい」

中から秘書らしき女性の声がする。

「晴です。入ります」

え?そんなにラフでいいの?と慌てる私をよそに、晴くんがドアを開ける。

正面のデスクにいた女性が立ち上がって丁寧に礼をし、手のひらでもうひとつのドアをさした。

「お待ちしておりました。どうぞ」

決して広くはない部屋にデスクはひとつだけ。

ここは秘書が使っている部屋のようで、続きドアの先が社長室のようだ。

お昼を食べる前でよかったかもしれない。

緊張して気持ち悪くなってくる。

ここでまた晴くんがノックをし、低い声の返事が聞こえたあとで扉を開けた。

晴くんに促され、緊張しながら社長室に足を踏み入れる。


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