《クールな彼は欲しがり屋》
 
急いで沢田課長の指から視線をそらし、私はテーブルに置かれたグラスを眺める事にした。

視界の隅にネイビーのジャケットが入り込んできた。
目の前の席に沢田課長が座ったのだ。

シャンパンが運ばれてきて、それぞれの前に置かれた。

「それでは、全員揃ったので始めますか。では、沢田課長から一言頂けますか?」
和泉さんに言われて、沢田課長は頷いてグラスを手にした。みんなも合わせてグラスを手にする。

「では、新しく営業に加わった仲間 春川を歓迎して乾杯!」

ごくりと飲み込んだシャンパンは、味がよくわからなかった。

なるべく目を合わさないようにしよう。そうしないと、何かとんでもないことになりそうな気がしていた。

グラスを持つ手が震えてしまう。

落ち着こう。

他の人がいる前で沢田課長も私に何か言ってくるわけがない。

「でも珍しいですね、課長がこういう集まりに参加するなんて」
江波さんが尋ねた。

「ん?ああ、まあな」

「何か特別な理由でも?」
和泉さんが沢田課長に尋ねると、沢田課長は、フッと笑った。

「特別な理由かぁ......」
そう呟いて沢田課長は、グラスをテーブルに置いた。それから、椅子にもたれかかり不意に私へ視線を向けた。


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