彼の甘い包囲網
「帰ろっか?」
然り気無く私の補助鞄を持ってくれた。
他愛ない話をしながら帰路に着き、あっという間にマンションの前に着いた。
「……遠回りになっちゃってごめんね」
部活もあって疲れているのに、と謝ると、拓くんはニコッと爽やかに微笑んでくれた。
「気にしないで。
どうせ紗也が言い出したんでしょ?
あ、楓ちゃん。
髪に糸屑ついてるよ」
そう言って拓くんが髪から糸屑を取ってくれた時。
「……楓、ちゃん?」
背後から声がした。
振り返ると奏多がいた。
ゆっくりと奏多が私に近付く。
奏多の視線は拓くんが触れている私の髪に注がれていた。
奏多が纏う空気が何故か冷たい。
妙な圧迫感を感じる。
スウッと奏多が紅茶色の瞳を眇める。
ゾクリと肌が粟立つ。
目の前に口元は笑っているのに目元が笑っていない奏多がいた。
こんな奏多は初めて見る。
「はい、楓ちゃん。
また明日ね」
補助鞄を渡されて、慌てて返事をする。
「あ、うん。
ありがとう……拓くん」
拓くんはいつものように奏多に一礼して、スッと奏多の横を通る。
その時、奏多の口が小さく動いたように見えた。
そして一瞬立ち竦んだ拓くんの姿も。
拓くんに駆け寄ろうとした、その時。
グッと右腕を強い力で掴まれた。
「自宅まで送るよ?」
初めてきく奏多の低い声だった。
然り気無く私の補助鞄を持ってくれた。
他愛ない話をしながら帰路に着き、あっという間にマンションの前に着いた。
「……遠回りになっちゃってごめんね」
部活もあって疲れているのに、と謝ると、拓くんはニコッと爽やかに微笑んでくれた。
「気にしないで。
どうせ紗也が言い出したんでしょ?
あ、楓ちゃん。
髪に糸屑ついてるよ」
そう言って拓くんが髪から糸屑を取ってくれた時。
「……楓、ちゃん?」
背後から声がした。
振り返ると奏多がいた。
ゆっくりと奏多が私に近付く。
奏多の視線は拓くんが触れている私の髪に注がれていた。
奏多が纏う空気が何故か冷たい。
妙な圧迫感を感じる。
スウッと奏多が紅茶色の瞳を眇める。
ゾクリと肌が粟立つ。
目の前に口元は笑っているのに目元が笑っていない奏多がいた。
こんな奏多は初めて見る。
「はい、楓ちゃん。
また明日ね」
補助鞄を渡されて、慌てて返事をする。
「あ、うん。
ありがとう……拓くん」
拓くんはいつものように奏多に一礼して、スッと奏多の横を通る。
その時、奏多の口が小さく動いたように見えた。
そして一瞬立ち竦んだ拓くんの姿も。
拓くんに駆け寄ろうとした、その時。
グッと右腕を強い力で掴まれた。
「自宅まで送るよ?」
初めてきく奏多の低い声だった。