彼の甘い包囲網
私の意見を完全に無視して紗也は電話を切った。

紗也は、少しでも二人で会いたいからと拓くんを待つ口実で私と勉強していた筈なのに。


「ほら、これで完璧!
何かあったら拓に連絡してよ。
番号知ってるでしょ?
蜂谷さんに対する私の考えを証明するためなんだからね、しっかり拓と帰るのよ、いいわね?
その為に拓との帰り道を泣く泣く譲るんだから」


拓には事情を詳しく伝えておくから、と紗也は笑って帰っていった。

譲ってくれなくていい、と思いながら私は勉強を再開した。

拓くんは程なくして迎えに来てくれた。



「……ごめんね、拓くん。
妙なことになって」

「ん?
大丈夫。
紗也から聞いてるから。
楓ちゃんを送ったら紗也に会いに行ってくるよ」


屈託なく笑ってくれる拓くんは文句なしの爽やか男子だ。

私の親友の女心をよくわかっている。

涼しげな二重の目元に線の細い身体。

拓くんと紗也は幼稚園の頃からの幼馴染みだ。

喧嘩もよくするけれどお互いをよく理解していて何より拓くんが紗也を大切にしている。


そんな二人の関係はとても羨ましい。
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