彼の甘い包囲網
「……奏多」

「……ん」

「奏多」

「……何」

「本当に奏多……?」


惰性で返事をしていたような声だったのに。

私の言葉に奏多がパッと顔をあげた。


「……何、泣きそうな顔してんの。
泣きたいのは俺だけど?
お前に会うことをずっと我満してたんだぞ。
やっと見つけたと思ったら逃げようとしやがって」


乱暴な口調なのに、私を見つめる瞳は何処までも優しくて熱を孕む。

ソッと奏多が私の目尻に滲む涙を唇で拭った。

顔が更に熱くなる。

夜でよかった、私の顔色が目立たない筈……って、待って、ここって……!


「か、奏多、ここは、あの横断歩道だし。
恥ずかしいからちょっと離れて!」

我に返って奏多から離れようとしたら。

「嫌だ。
俺から逃げようとしたんだから、お仕置きが必要だろ?」

「は、あ?
お、お仕置きって……何、言って……!」

奏多は逆に私を抱き締める腕に力を込める。

「奏多っ」

「離してほしかったら一緒に来い」


サッと片腕を私の腰に回して奏多は歩き出す。

「な、何でっ私、今から帰る……。
それに、条件……!」

留まろうと踏ん張る私に。

「……お前を見つけた時の俺の気持ちがわかるか?」

切な気に吐き出された奏多の言葉に、力が抜けた。

見惚れる程、綺麗な顔立ちに滲む苦しさが私から言葉を奪う。

その姿から漏れるハッとするほどの色気にあてられる。
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