彼の甘い包囲網
表情の読めない奏多の横顔を見つめて、私は黙りこんだ。

何故急に奏多が不機嫌になるのかも分からず仕舞い。

近づかない、という条件も守られていないし、そもそも何を私はノコノコと奏多の自宅にまで来てしまっているんだろう。

……流され過ぎだ。




雑誌に掲載された奏多の姿を見て、居合わせた女性の話に動揺して。

自分の中の泥々した気持ちに気付いて、目を逸らしたくなって。

気持ちを落ち着けようと思った矢先に、奏多に再会して。

外見も中身も成長していない自分に落ち込んで。

奏多の部屋についてきてしまった。

正直、イッパイイッパイだ。

そのうえ、奏多は不機嫌で、もう訳がわからない。


ポーン、と無機質な音を立てて、エレベーターの扉が開いた。

ピカピカの廊下の向こうには四部屋があった。

奏多は一番奥の部屋に向かってカードをかざした。

カチャリ、とドアが開けられた。

「どうぞ」

「お、お邪魔します……」


奏多に促されて、私はオズオズと玄関に足を踏み入れた。

初めて入る奏多のもうひとつの自宅。

奏多の香りがする。

白い大きな玄関。

高い天井。

ガチャン、と背後の扉が閉まる音がして。

振り返った私は奏多に抱きすくめられた。


「やっと捕まえた」


はあ、と溜め息が頭上に落ちてきた。

「お前、すぐ逃げようとするから」

「なっ……」

「ちゃんと話したかったし、お前の顔をゆっくり見たかったんだ」


そう言って奏多は私の両頬を大きな手で包んだ。

奏多の色気を含んだ瞳が私をひたと見据えて。

私はその熱に捕らわれる。

あまりに見つめられて羞恥で頬が熱くなる。

ドッドッド、と鼓動が暴れだす。

きっと私の顔は今、真っ赤だ。

「……髪、伸びたな」

奏多の瞳が細く眇められる。

「……急に綺麗になった、何で?」

熱っぽい口調に私の体温が益々上がる。

触れられた頬が燃えるように熱い。

喉がカラカラに乾いて言葉が出ない。

奏多の瞳に魅入られて動けない。

奏多の口元がフッと緩んで。

私の唇に温かな熱が触れた。

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