彼の甘い包囲網
ハッとして涙を滲ませた瞳を見開く。

口を押さえた両手は微かに震えていた。


「……かえ、で。
今……」


吃驚した顔で奏多が私を見つめた。

ほんのり赤くなった奏多の頬とは対照的に私の顔からは血の気がサアッとひく。

一瞬で冷たくなった指は、鞄をうまく掴めない。


「ち、ちが……き、気にしないで。
あ、あの、私、帰る……!」

立ち上がって逃げようとする私の身体に再び奏多の腕がまわって抱き締められた。


「帰さない。
帰すわけないだろ」


色気を含んだ危険な瞳が私を真っ直ぐに見つめる。

奏多の手がそうっと私の頬に触れた。

いつのまにか零れていた涙を掬う。

唇が震えて言葉が出ない。

奏多の反応が恐い。


「……楓。
もう一回ちゃんと言って。
俺をどう思っているのか聞かせて」

懇願するように言われて。

私の心臓は狂ったように暴れだす。

胸がギュウッと何かに掴まれたかのように痛くて、苦しい。

喉の奥から言葉が、気持ちが、込み上げる。

打ち明けたい、本心をぶつけたい。

もう限界。

もう誤魔化せない。

胸が痛い。

痛くてたまらない。


「……好き」


口にしたら涙が零れた。



「奏多が……好き……なの」


奏多への素直な気持ちは。

ずっと私の心に棲みついていたようで。

覚醒を待っていたようで。

実際に口に出してしまったら。


感情がどんどん溢れだした。

恐いのに、伝えたくて。

何かに急かされるように。

私の心から、気持ちが溢れだす。

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