彼の甘い包囲網
「……柊に改めて俺達のことを伝える」


立場上、奏多は柊兄の上司なのに。

少し緊張した様子で奏多は言った。

スマートフォンを取り出して電話をかける。

「柊?
今から楓を送ってく。
あ?
お前に話があるんだよ。
違う、仕事じゃねぇ」

兄が大声で喚いている声が微かに聞こえる。

奏多は少し顔をしかめて話をしている。

いつも通りの表情で奏多は通話を終え、私に向き直った。

その表情はとても穏やかだ。

「お、お兄ちゃん、何て?」

「お前が帰ってこないから心配してた。
俺の家に連れていくって連絡はしていたんだけどな。
遅いって怒鳴られた」


……現在午後十時を少し過ぎたところだ。

慌てて、自分のスマートフォンを確認するために鞄の元へ行こうとすると。

何故か指を絡めたまま奏多が付いてきた。

このままじゃスマートフォンが取り出せない……。


「か、奏多?
手……」

「はい、鞄」

ニッコリと笑んで奏多が私に鞄を渡してくれた。

「……あ、ありがとう」

何かおかしい気がする、と思いながらもスマートフォンを確認すると、柊兄からのおびただしい着信。


……連絡いれるべきだったな、悪いことしたな、と思っていると。


フワッと肩からトレンチコートを奏多が被せてくれた。

「……急いで帰って謝ろう」

ぽん、と私の頭に手を乗せて言う奏多に胸が熱くなった。

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