彼の甘い包囲網
慌ただしく私は千春さんから着替えやらをいただいて、奏多の自宅でお風呂に入らせてもらった。

ただっ広い洗面所の鏡を見て初めて気がついたのだけれど。

既に私は素っぴんだった。

どうやら千春さんの気遣いで昨夜私を着替えさせてくれた時に、拭き取りタイプのメイク落としでメイクを落としてくれていたようで。

おかげで寝起きで化粧がドロドロになっているという悲惨な状況は回避できたけれど。

枕も汚さずにすんだけれど。

凄まじく綺麗な顔立ちの二人に私の素顔を晒すのは本当に辛かった。

千春さんが用意してくれたのはグレーの細いストライプが入った襟つきの七分袖のワンピースだった。

ストン、と腰がほどよく絞られて落ちるデザインで大人っぽくも可愛らしくも見えてとても素敵だった。

私は着ないから是非着て、と千春さんは気前よくプレゼントしてくれた。

私は恐縮しながらも可愛い、とほめてくれる二人の有り難い厚意をいただいた。

奏多もシャワーを浴びて着替えていた。

奏多はカーキ色のチノパンに白と黒の細いボーダー柄のシャツを着ている。



三人で千春さんが準備をしてくれていた朝食をいただいた。

温かい野菜スープに何種類もあるパン、スクランブルエッグ、ソーセージ、野菜のグラッセ等何処のホテルの朝食?と思うようなものばかり。

「美味しい……!」

「良かった!
二日酔いだからあんまり胃に負担がかからないもの、とは思ったのだけど、普段楓ちゃんが好きなものも念のために頼んだの」

ニッコリとそれはもう花が綻ぶような笑顔を浮かべる千春さん。

「え?
頼んだって……」

普通のお店でそこまで臨機応変に対応できる?

「……千春。
佐伯さんに頼んだのかよ」

奏多が仕方ないな、といった目で千春さんを見る。

「だってそれが一番でしょ。
大切な楓ちゃんだし!
佐伯さん、事情を話したらすっごく張り切って作ってくれたわよ」

「それはよかった。
後で礼を言う」

私は奏多の袖を引っ張って聞いてみる。

ちなみに私の化粧は千春さんが私では絶対にできないプロ顔負けの腕前で仕上げてくれた。

奏多は素顔がいい、とかあり得ないことを言っていたけれど。
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