彼の甘い包囲網
「楓、もう食べないのか?」

フォークを置いたままの私に、奏多が話しかける。

相変わらず綺麗な所作で奏多は食事を進めている。

「……う、うん。
お腹いっぱいで……ありがとう。
あの、私、こんなに奏多にも千春さんにもお世話になってしまったし、奏多の御実家にまでお世話になってしまって、御礼を伝えさせて貰いたいんだけど……」

「ああ、気にしないで!
大丈夫よ。
だって楓ちゃんは近い将来の私の義妹になるんだもの。
大事にして当たり前よ。
楽しみだわ、たくさん遊びたいわあ」

「千春!
お前が言うな!
楓はお前にはやらないからな」

奏多がギュッと私の肩を抱き寄せる。

「ちょ、奏多!」

慌てて身体を離そうとしたら、もっと密着させられた。


「楓ちゃんが嫌がってるでしょ。
やめなさいよ、鬱陶しい男ね!
そうだわ、楓ちゃん。
今からお買い物に行かない?
このマンションに来ることも多くなるでしょ?
楓ちゃんの着替えや化粧品とかも置いておいた方がいいし。
私の部屋に置いておくわ」

キラキラした笑顔で千春さんに言われた。

「千春の部屋に置くわけないだろ!
楓は俺の婚約者なの、俺が一緒に買い物に行くし、俺の部屋に置く!
っつーか、朝飯食ったんならさっさと帰れ」

私をぎゅう、と抱き寄せたまま、奏多が千春さんを睨みつける。

奏多の香りがフワリと私に降りかかる。

「何よ、本当に可愛くない弟ね。
アンタそんなに狭量だったら楓ちゃんに嫌われるからね!」

負けじと睨み返す千春さん。

奏多に睨まれても怯まない千春さんはヤッパリ凄い。

そしてそんな美形二人に挟まれて私はとても居心地が悪かった。
< 143 / 197 >

この作品をシェア

pagetop