彼の甘い包囲網
それからも蜂谷姉弟は喧嘩と睨み合いを繰り返して。

タイミング良くというか悪くというか、実家からお呼び出しが急にかかってしまった千春さんが泣く泣く諦めることになり。

近いうちに必ず女の子同士でお買い物に行きましょうね、と言われ。

千春さんが自室に引き上げて、朝食を片付けている間も。

奏多はずっと私の手を握ったり何処かしこに触れていた。


「……あ、の。
奏多?」

「……ん?」


お皿を洗っている私の髪に奏多は口付ける。

その仕草を恥ずかしくて直視できない。

更に私の背中から腰に腕を回してくる。

私の心臓がバクバク音を立てる。

本当に勘弁してほしい。


「……くっつきすぎじゃない?」

「千春がいたせいで楓を抱き締められなかったから」

「抱き締めてたじゃない!」

シレッと言う奏多に思わず言い返す。

「俺に抱き締められるの嫌なのか?」

ヒョイ、と私の顔を横から覗き込む。

サラリ、と奏多の綺麗な髪が私の髪に微かに触れる。

綺麗な紅茶色の瞳が間近に迫る。

どく、どく、どく、と心臓が速い鼓動を刻む。

もうその綺麗すぎる顔と魅力的な声を近づけないでほしい。

本当に私の心臓がもたない……!

カアアッと一気に頬に熱をもって真っ赤になった私を奏多は。

「可愛い」

と言って耳にキスをした。

もう本当に甘すぎて、どうしていいかわからない。
< 144 / 197 >

この作品をシェア

pagetop