彼の甘い包囲網
「うん、似合ってる。
それにしよう」

嬉しそうに微笑む奏多。

「じゃあ、これとそれと……あれを貰います。
あ、今、試着している服はこのまま着ていきます」

「えっ、奏多!
私、千春さんにいただいた服が……」

「千春の服はムカつくからいい。
俺が選んだ服を着て」

「……意味わかんないから!」

子どもみたいに拗ねながら、奏多がテキパキと店員さんに指示を出す。

私はフィッティングルームで着せ替え人形状態。


ここは某有名デパート。

あれから私の『ちょっとした』着替えやらを買いに行くために奏多が運転する車で連れていかれた先がここだった。

もっとカジュアルなお店やショッピングモールやらを提案したけれど却下され。

かなりの数の着替えと靴を買ってもらってしまった。

しかも全く可愛くないお値段のものを。

こんなに要らない、と何度も言って随分減らしてもらい。

こんな高いものは無理、と言ったけれど、そこは似合っているから無理、とひいてもらえず。

部屋着もやたらと可愛くないお値段のものが揃えられ。

下着、となった時は流石に一人で買わせて欲しいと懇願した。

奏多は面白くなさそうな顔をしたけれど、女性店員さんに何かを話して、コーヒーを飲んでくる、と言って離れてくれた。

やっと一人になれた、と安堵したのも束の間。

店員さん達に迫られて私は結局、人形状態になってしまった。

「あの、ワンセットだけで十分です!
わ、私、そんなにお支払もできないので!」

「まあ、蜂谷様より最低でも二週間分の用意はするように言われております。
お好みを仰っていだけたら商品を持って参ります。
お支払の件も蜂谷様より承っておりますのでお気になさらず」

「二、二週間?
そんなに要りません!」

私の自宅にもそんなにストックはないのに。

けれど、上品な店員さん達に敵わずに結局押しきられた。

見たことのない繊細なレースや肌ざわりのよい素材。

……もう恐くて値札は見れないし、総額が幾らになるのか聞くことすらできない。
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