彼の甘い包囲網
それから。

奏多は必要な分だけ車に運び、山のような買い物に配送手続きをした。


デパートを出た後、色々な意味でグッタリしている私はご機嫌な奏多に手を引かれ、カフェに向かっていた。

その道すがらも。


羨望、憧れ、興味。


色々な思惑が込められた熱い視線が奏多に向けられる。

蜂谷グループの御曹司というだけではなく。

その圧倒的な存在感。

振り返って見惚れてしまうくらいの凄まじく綺麗な顔立ち。

均整のとれた体躯。

その一挙一動を皆が追う。


「……カッコいい……!」

「え、モデル?」

「素敵!」

「隣りにいる子は彼女?」


注目を浴びても奏多は平然と私の指を絡ませて歩く。

まるで他人の視線なんて目に入らない、と言わんばかりに。

奏多が目立つ人だということなんて、出会った頃からよくわかっている。

千春さんみたいな大人で綺麗な女性でもない私は俯いてしまう。


「……楓?」


私のことをよくわかっている奏多は優しく話しかけてくる。


「愛してる。
俺は楓だけがいてくれたらそれでいい」


空いている手で私の髪をクシャッと撫でて奏多は蕩けそうな笑顔を向ける。

その仕草と、優しさにきゅん、と胸が疼く。


「楓が一番可愛い」


甘い声が私を包む。

そんなこと、ないのに。

いつだってそう。

私が気にすること、嫌なこと……私の気持ちをいつも奏多は敏感に察してくれる。

そして私が一番安心する方法を、言葉をくれる。

今日の買い物のように、多少強引でも俺様でも。

本質は私が嫌がることを絶対にしない、私を守ってくれる人だって知っているから。

信じているから。

奏多に本気で逆らう気になれない。

そしてそんな奏多を愛しく想ってしまう私はヤッパリ奏多に敵わない。

困ったように笑う私を奏多は甘い瞳で見つめ返してくれた。

その瞳に見惚れていた私は、私達を見つめる、違う意味をこめた視線に気が付かなかった。



そしてそのことが私には辛い出来事の始まりとなった。

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