彼の甘い包囲網
週明け。

充希くんが迎えに来てくれて、私は奏多と立川さんが運転してくれる車に乗った。

「おはよう、楓ちゃん。
狼に襲われなかった?」

爽やかな王子様スマイルに相応しくない台詞に私は真っ赤になる。

「充希!
俺は襲ってない!」

「それ、何の否定?
襲う気満々だったよね?
ああ、そうか。
柊の許可をもらってないのか」

「ち、違います!
つ、付き合ってすぐだし……!
まだ、その……」

「俺は楓を大事にしてるんだよ」

「……そんな本気で説明してくれなくても、冗談なんだけど?」

クスクスと充希くんが楽しそうに笑う。

恥ずかしすぎて充希くんの顔が見られない


「……充希、お前残業決定だな」

ムスッとした顔で奏多が言う。

「酷いね。
楓ちゃんを迎えに行くっていう柊を必死に止めてあげたのに」

サラリと交わす、上手の充希くん。

どっちが上司なのかわからない。

「……お前は敵に回したくないな」

「そう?」

ニッコリと微笑む腹黒いもう一人の王子様。


流石に会社の真ん前で降ろしてもらうなんて度胸のすわったことはできないので、私は少し離れた場所で降ろしてもらった。

同じ会社だったら一緒に出勤出来るのに、と意味のわからないことを言っている奏多は無視した。

「じゃあ、立川さん、充希くん。
ありがとうございました、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

「気を付けてね。
奏多が寂しがるから、また連絡して上げて」

「うるさい、充希!
楓、連絡するから。
今日の服、やっぱり可愛いな」

フワリと優しく微笑んで奏多は私に手を振った。

ドキン、と私の胸が大きな音を立てた。

今日の私のスーツはノーカラーのツイード調の紺色のジャケット、白いフレアスカートだ。

それに五センチヒールのベージュパンプス。

奏多が先日買ってくれたものだ。

直接的に私への気持ちを表してくれる奏多に照れながら御礼を伝えて、手を振って会社へ向かった。

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