彼の甘い包囲網
「楓ちゃん、今、ちょっといい?」

パソコン画面を睨み付けるように作業していた私に、杏奈さんが話しかけた。

ベージュのワンピースに白いジャケットを羽織った杏奈さんは今日もとても可愛らしい。

緩くシュシュで束ねた髪も色っぽい。



「あ、は、はいっ」

「ごめんね、今、忙しい?」

「あ、いえ。
スミマセン。
ちょっとこの計算がわからなくて」

「ああ、これね。
この場合はここをこうして……」

言うが早いか杏奈さんはササッと修正してやり方を教えてくれた。

「わかった?」

「はい!
助かりました、ありがとうございます!」

杏奈さんはニッコリと笑って私に尋ねた。

「良かった。
楓ちゃんは呑み込みが早いから助かるわ。
わからないことがあったらいつでも聞いてね。
今は急ぎの仕事はない?」

「はい」

「じゃあ今からちょっと一緒に来てくれる?
午後から使う会議室の準備について教えたいの」

ガタッと杏奈さんと立ち上がる。

「今日は内々の会議だから、このフロアの会議室を使うし、あまり畏まらなくて大丈夫だから。
別フロアの他部署と合同になったり人数が増えたりすると別の会議室を使ったりするから、その時はまた教えるわね」


にこっと杏奈さんは微笑む。

それから資料や荷物を抱えて会議室に入り、指示を受けながら準備をした。

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