彼の甘い包囲網
「楓ちゃんは素直だから、涼が構いたくなる気持ちがわかるわ」

会議室に施錠しながら、杏奈さんが苦笑した。

「ええっ！
私は杏奈さんみたいに綺麗な女性になりたいです！」

言った瞬間。

ボボボッと杏奈さんの顔が紅く染まった。

「嫌だ！
そんなことない、私は楓ちゃんみたいに可愛くなりたいわ。
そしたらもっと自分に自信、持てるんだけど……」

小さく呟くように言った杏奈さんは少し寂しそうに見えた。

「杏奈さんは素敵ですよ！
私の憧れです！」

少しでも力付けたくて私が意気込むと杏奈さんは笑ってくれた。

「……ありがとう。
本当に楓ちゃんは優しいわね。
あ、そろそろお昼ね。
一旦鍵を置きに戻ろう」

「はい。
あ、杏奈さん。
この余分な資料はどうしましょう」

「うーん。
予備はこんなにいらないし、戻そうか」

私は返事をして資料を持ち、杏奈さんとフロアを歩き出した。

その時。

フワッと何処かで香ったことのある甘い香りが鼻孔をくすぐった。

「お疲れ様です、杏奈さん」

廊下の先から真っ直ぐにこちらに向かって歩いてきた女性が言った。
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