彼の甘い包囲網
「お疲れ様」
杏奈さんは少し戸惑った様子で目の前の女性に挨拶をした。
とても綺麗な女性だった。
女性にしては比較的高めの部類に入る、杏奈さんとほぼ同じくらいの身長。
一目で質が良いものとわかる光沢のあるピンクベージュのスーツ。
首回りを華やかに彩るフリルブラウスから微かに覗く鎖骨が白くてとても美しい。
艶やかに巻かれた黒に近い、焦げ茶色の髪に垂れ目がちな瞳には完璧なアイメイクが施されている。
小さな唇は濡れたように輝いている。
思わず一瞬見惚れて、慌てて頭を下げた。
「お疲れ様です」
私を見た途端、彼女は目を見開いた。
そこに浮かぶのは驚愕。
けれど、彼女はそれを一瞬で隠したため、私もさっきの表情は錯覚かと思うほどだった。
「……杏奈さんの後輩ですか?」
黒く底光りする瞳に私を映して女性が話した。
何故か彼女は私の顔を凝視する。
まるで探るように。
居心地が悪い。
「そう。
今年入社した安堂楓さん。
可愛らしいでしょ?」
杏奈さんが彼女の無遠慮な視線を遮るように口を開いた。
「……ええ、本当に。
初めまして、安堂さん。
秘書課の有澤です」
先ほどまでの驚いた様子は微塵も感じさせず、完璧な微笑みを私に向ける。
でも何故かその笑みに温度を感じないのは私だけだろうか。
とても綺麗なのに、何処か寒々しささえ感じてしまう。
「安堂と申します。
よ、よろしくお願いします」
再び軽く頭を下げる。
「こちらこそ……そう、あなた新入社員の方だったの」
「え?」
「いいえ、随分可愛らしい人だと思ったの」
相変わらずの綺麗な微笑み。
だけどやっぱり取り繕われたように感じてしまう。
有澤さんの微笑みを見た時、何故か私は以前に有澤さんに会った気がした。
「ここに就職したの?」
杏奈さんが有澤さんに意外そうに問う。
「そうなんです、先月から。
まだまだ慣れずに未熟者だけれど。
杏奈さん、またゆっくり相談にのってもらいたいわ」
「勿論」
「嬉しい。
また連絡するわね。
安堂さん、お話しできて良かったわ。
それじゃ、失礼するわ」
カツン、とヒールの音を響かせて有澤さんは去っていった。
後ろ姿を見送りながら、杏奈さんが呟いた。
「ごめんね、楓ちゃん。
嫌な思いしたんじゃない?」
「え?」
「彼女、独特の雰囲気というか威圧感があるから……弟大好きってわけでもない筈なんだけど。
涼には一応言っておくから」
「……あの、杏奈さん。
スミマセン、よくわからないのですが……」
「え?
気付いていたんじゃなかったの?
彼女、有澤瑠璃は涼の姉よ?」
「ええっ!!」
吃驚の声をあげる私。
「あの有澤さんですかっ?!」
「そうよ。
この間、私達がエントランスで話し込んでいたことを耳にでもしたのかしらって思ったのだけど……それにしても瑠璃、ここに就職していただなんて。
知らなかったわ……」
……言われてみれば、同じ有澤さん、だ。
更にあの綺麗な顔立ち。
姉弟揃って美形……ん?
この、組み合わせ……奏多のところもだよね……千春さんも奏多も文句なしに美形だし……。
何で私の周囲には充希くんといい杏奈さんといい美人さんばっかりなんだろう……。
杏奈さんは少し戸惑った様子で目の前の女性に挨拶をした。
とても綺麗な女性だった。
女性にしては比較的高めの部類に入る、杏奈さんとほぼ同じくらいの身長。
一目で質が良いものとわかる光沢のあるピンクベージュのスーツ。
首回りを華やかに彩るフリルブラウスから微かに覗く鎖骨が白くてとても美しい。
艶やかに巻かれた黒に近い、焦げ茶色の髪に垂れ目がちな瞳には完璧なアイメイクが施されている。
小さな唇は濡れたように輝いている。
思わず一瞬見惚れて、慌てて頭を下げた。
「お疲れ様です」
私を見た途端、彼女は目を見開いた。
そこに浮かぶのは驚愕。
けれど、彼女はそれを一瞬で隠したため、私もさっきの表情は錯覚かと思うほどだった。
「……杏奈さんの後輩ですか?」
黒く底光りする瞳に私を映して女性が話した。
何故か彼女は私の顔を凝視する。
まるで探るように。
居心地が悪い。
「そう。
今年入社した安堂楓さん。
可愛らしいでしょ?」
杏奈さんが彼女の無遠慮な視線を遮るように口を開いた。
「……ええ、本当に。
初めまして、安堂さん。
秘書課の有澤です」
先ほどまでの驚いた様子は微塵も感じさせず、完璧な微笑みを私に向ける。
でも何故かその笑みに温度を感じないのは私だけだろうか。
とても綺麗なのに、何処か寒々しささえ感じてしまう。
「安堂と申します。
よ、よろしくお願いします」
再び軽く頭を下げる。
「こちらこそ……そう、あなた新入社員の方だったの」
「え?」
「いいえ、随分可愛らしい人だと思ったの」
相変わらずの綺麗な微笑み。
だけどやっぱり取り繕われたように感じてしまう。
有澤さんの微笑みを見た時、何故か私は以前に有澤さんに会った気がした。
「ここに就職したの?」
杏奈さんが有澤さんに意外そうに問う。
「そうなんです、先月から。
まだまだ慣れずに未熟者だけれど。
杏奈さん、またゆっくり相談にのってもらいたいわ」
「勿論」
「嬉しい。
また連絡するわね。
安堂さん、お話しできて良かったわ。
それじゃ、失礼するわ」
カツン、とヒールの音を響かせて有澤さんは去っていった。
後ろ姿を見送りながら、杏奈さんが呟いた。
「ごめんね、楓ちゃん。
嫌な思いしたんじゃない?」
「え?」
「彼女、独特の雰囲気というか威圧感があるから……弟大好きってわけでもない筈なんだけど。
涼には一応言っておくから」
「……あの、杏奈さん。
スミマセン、よくわからないのですが……」
「え?
気付いていたんじゃなかったの?
彼女、有澤瑠璃は涼の姉よ?」
「ええっ!!」
吃驚の声をあげる私。
「あの有澤さんですかっ?!」
「そうよ。
この間、私達がエントランスで話し込んでいたことを耳にでもしたのかしらって思ったのだけど……それにしても瑠璃、ここに就職していただなんて。
知らなかったわ……」
……言われてみれば、同じ有澤さん、だ。
更にあの綺麗な顔立ち。
姉弟揃って美形……ん?
この、組み合わせ……奏多のところもだよね……千春さんも奏多も文句なしに美形だし……。
何で私の周囲には充希くんといい杏奈さんといい美人さんばっかりなんだろう……。