彼の甘い包囲網
「……へえ、いるのね。
どんな人?
年齢は?
仕事は?」

食い入るように私を見つめる瑠璃さん。

その瞳は笑っているのに温度を感じない。


「あら、答えられないの?
どんな人なの?
いつから付き合っているの?」

瑠璃さんはまるで見下すかのように瞳を眇める。

「……ねえ、瑠璃。
何でそんなに楓ちゃんの彼氏のこと聞きたいの?
楓ちゃんと瑠璃って、この間知り合ったばかりでしょ?」

「……ただの興味よ。
別にいいわ、人の彼氏なんて。
ごめんなさい、そろそろ時間だから戻るわ」


ガタッと大きな音を立てて瑠璃さんが立ち上がった。

去り際に瑠璃さんは一瞬だけ私に強い視線を向けた。

「……この間、一緒にお買い物をしていた彼氏によろしくね」

私にだけ聞こえる小さな声。

ゾクリ、と背筋に震えが走った。

トレイを持ち上げる瞬間に発せられたその言葉は挑戦的ともとれる言い方だった。

どうして瑠璃さんにそんな態度を取られるのか私には全くわからなかった。

見られていたことも恐かった。

向けられた眼差しは、やはり何処かで見た気がした。

「何なのかしら、瑠璃……。
あんな子じゃなかったのに。
楓ちゃん、気にしなくていいよ。
私、後で涼に言っておくわ」

杏奈さんが憤慨しながら、言った。

私は強張った頬を無理矢理動かして微笑んだ。

湧き上がる胸騒ぎがおさまらなかった。
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