彼の甘い包囲網
多忙な奏多は、電話、メール、メッセージと手段は様々だけれど、いつも私に絶妙のタイミングで連絡をくれる。

思い返してみると昔から奏多はこまめに連絡をくれていた。

私の感情の起伏や様子に誰よりも目敏くて。

ある意味、柊兄より私を見てくれていた。


奏多の声はいつもとても甘く優しい。

以前それを奏多に話したら楓だからな、と何故か苦笑された。



「楓。
弁当買ってきたけど食べるか?」

「え?
何か作るよ?」

「いや、今日帰りに美味そうな弁当を見つけたからお前のぶんも買ってきた」

「そうなの?
ありがと、じゃあ食べる!」


我が家では食事は一応、当番制になっている。

ただ、兄は出張もあり、その職種というか雇主のせいか、立場からか勤務時間が不規則だ。

そのため、大体作れる方が作っている。


「いただきまーす」


豚の角煮が入ったお弁当の蓋を開け、味を堪能していると、兄に話しかけられた。

「お前さっき元気なかったけど、何かあったのか?」

「あ、うん。
今朝ね……」

私はお見合いの話をした。

有澤姉弟が同じ会社に勤めていることも。

私と同じように吃驚してくれるか笑い飛ばされると思ったのに、何故か柊兄は盛大に不機嫌な顔をして呻くような声を出した。


「いや、何でそんな話になるんだ……?
早すぎる……何かおかしいな……?」

「だよね、だってそんな素振りの男性にお茶だしをした覚えはないんだけど」

おにぎりを食べながら返事をすると。

「そっちじゃない」

軽く睨まれて否定された。

「お前、この話は奏多にしたか?」

「ううん、後でメッセージ送ろうかなって……」



私の返事に渋面になった兄は恐らく奏多と充希くんに連絡したのだろう。

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