彼の甘い包囲網
直ぐ様、私のスマートフォンに奏多から着信があった。
「楓!
どういうことだ!」
慌てた声の奏多に私が驚いた。
更には三十分もしないうちに、奏多が息せき切って自宅にやってきた。
「楓!
無事か?」
誰かに拉致されたわけでもないのに、悲壮な表情で奏多は私を抱き締めた。
頬を掠める奏多のいつもの香りに汗の匂いが混じる。
いつもピシッと着こなしている高級スーツは着乱れて少し皺が寄っている。
「だ、大丈夫……何で?
どうしたの、奏多?」
奏多に抱き締められながら私は胸の中でもがく。
ハアッと奏多が大きく息をした。
「……良かった。
ちゃんと断ったか?」
「え?
あ、お見合い?
うん」
奏多が私の前髪を軽く掻きあげて額にキスをした。
「イイコ。
見合い相手は誰?」
いつもと変わらない笑みを浮かべる奏多。
「……さあ?
私がお茶だしをした人って言ってたよ」
「名前や会社名はわかるか?」
真っ直ぐ私の瞳を見つめる柔らかい視線。
「ううん、写真すら見てない」
私の返事に奏多は綺麗な眉をひそめた。
「……妙だな」
「でしょ?
いきなり新入社員の私にお見合いだなんてね」
「いや、そっちじゃない。
まあ、いい。
おいで、楓」
フワ、と奏多が微笑んで私を再び腕に引き寄せた。
「お前は誰にも渡さないから。
お前は俺のものだから、忘れるなよ」
「……う、うん、わかってるよ?」
恥ずかしくなって上目遣いで奏多を見上げると。
「……その顔、絶対に会社でするなよ?
くそ、可愛すぎる……。
あーもう……指輪準備するわ、俺……心配で胃が痛え。
いや、やっぱり楓、転職するか……引っ越すか……やっぱり入籍……」
ブツブツ言い出す奏多に白けた顔をした兄が声をかけた。
「……どうでもいいけど、ここ俺の家で、俺がいるんだよ。
楓を離せよ、苦しそうだろ」
「……うるさい小舅だな。
ちょっとぐらいいいだろ、俺は明日から楓に会えないんだぞ?
……こんな形で今日会えるのは何だか不本意だけどな。
なあ、楓?」
奏多は腕の中の私を覗き込む。
「奏多。
私ご飯食べたい」
私の返事に奏多は心底傷付いたような瞳を向ける。
「……飯に負けた……」
そう言いながらも奏多は私の頬と鼻にキスをしてお弁当の元へ帰してくれた。
「食べ終わったらもう一度抱き締めさせて」
甘ったるい声で囁くことを忘れずに。
柊兄と奏多は私から少し離れた場所でノートパソコンを開き、難しい顔で話し合っていた。
私はそんな二人の真剣な表情を、湧き上がる不安と共に見つめた。
さっきまでの奏多の甘い態度は私を不安にさせないため、落ち着かせるためのものだとわかっていながら。
「楓!
どういうことだ!」
慌てた声の奏多に私が驚いた。
更には三十分もしないうちに、奏多が息せき切って自宅にやってきた。
「楓!
無事か?」
誰かに拉致されたわけでもないのに、悲壮な表情で奏多は私を抱き締めた。
頬を掠める奏多のいつもの香りに汗の匂いが混じる。
いつもピシッと着こなしている高級スーツは着乱れて少し皺が寄っている。
「だ、大丈夫……何で?
どうしたの、奏多?」
奏多に抱き締められながら私は胸の中でもがく。
ハアッと奏多が大きく息をした。
「……良かった。
ちゃんと断ったか?」
「え?
あ、お見合い?
うん」
奏多が私の前髪を軽く掻きあげて額にキスをした。
「イイコ。
見合い相手は誰?」
いつもと変わらない笑みを浮かべる奏多。
「……さあ?
私がお茶だしをした人って言ってたよ」
「名前や会社名はわかるか?」
真っ直ぐ私の瞳を見つめる柔らかい視線。
「ううん、写真すら見てない」
私の返事に奏多は綺麗な眉をひそめた。
「……妙だな」
「でしょ?
いきなり新入社員の私にお見合いだなんてね」
「いや、そっちじゃない。
まあ、いい。
おいで、楓」
フワ、と奏多が微笑んで私を再び腕に引き寄せた。
「お前は誰にも渡さないから。
お前は俺のものだから、忘れるなよ」
「……う、うん、わかってるよ?」
恥ずかしくなって上目遣いで奏多を見上げると。
「……その顔、絶対に会社でするなよ?
くそ、可愛すぎる……。
あーもう……指輪準備するわ、俺……心配で胃が痛え。
いや、やっぱり楓、転職するか……引っ越すか……やっぱり入籍……」
ブツブツ言い出す奏多に白けた顔をした兄が声をかけた。
「……どうでもいいけど、ここ俺の家で、俺がいるんだよ。
楓を離せよ、苦しそうだろ」
「……うるさい小舅だな。
ちょっとぐらいいいだろ、俺は明日から楓に会えないんだぞ?
……こんな形で今日会えるのは何だか不本意だけどな。
なあ、楓?」
奏多は腕の中の私を覗き込む。
「奏多。
私ご飯食べたい」
私の返事に奏多は心底傷付いたような瞳を向ける。
「……飯に負けた……」
そう言いながらも奏多は私の頬と鼻にキスをしてお弁当の元へ帰してくれた。
「食べ終わったらもう一度抱き締めさせて」
甘ったるい声で囁くことを忘れずに。
柊兄と奏多は私から少し離れた場所でノートパソコンを開き、難しい顔で話し合っていた。
私はそんな二人の真剣な表情を、湧き上がる不安と共に見つめた。
さっきまでの奏多の甘い態度は私を不安にさせないため、落ち着かせるためのものだとわかっていながら。