彼の甘い包囲網
狙われている、と言われても正直何ひとつピンと来なかった。
私と奏多が付き合い始めたのは最近だけど。
今まで何ともなかった。
そんな恐怖や脅威を感じたこともなかった。
兄は相変わらず固い表情をしている。
普段饒舌な兄とは思えない。
重い空気が車内に満ちる。
「……家に帰るんじゃないの?」
車窓を流れる景色に違和感を感じて尋ねた。
「……千春さんのところにお前を連れていく」
「何で?」
「うちのマンションより格段にセキュリティが高い。
俺は暫く忙しいし、お前の傍にずっといてやれない。
奏多も充希も暫く戻れない。
仕事も休ませたいが、お前はそれを嫌がるだろう。
なら、千春さんにお願いするのが一番だからな」
「ちょっと待って、そんな勝手に……!
社会人なんだからそんな私的な理由で休めないよ。
それに千春さんにだって迷惑かけられない……っ」
「……奏多からの指示だ。
千春さんも了承している」
「指示って……!
奏多は私の上司じゃない!」
意味がわからない。
私はグッと唇を噛み締めた。
奏多が指示ってどうして。
連絡はとれないって言っていたのに。
どうして直接言ってもらえないの。
「頼むから今は言うことを聞いてくれ。
俺も奏多もお前を守りたいんだ」
見つめた先にあるのは『お兄ちゃん』の顔をした兄だった。
泣き出したくなる気持ちを抑えて私は悔し紛れに視線を逸らした。
「……奏多に話をしたいって伝えて」
「……わかった」
兄は短く返事をした。
マンションに着くまで兄の表情はとても暗かった。
私と奏多が付き合い始めたのは最近だけど。
今まで何ともなかった。
そんな恐怖や脅威を感じたこともなかった。
兄は相変わらず固い表情をしている。
普段饒舌な兄とは思えない。
重い空気が車内に満ちる。
「……家に帰るんじゃないの?」
車窓を流れる景色に違和感を感じて尋ねた。
「……千春さんのところにお前を連れていく」
「何で?」
「うちのマンションより格段にセキュリティが高い。
俺は暫く忙しいし、お前の傍にずっといてやれない。
奏多も充希も暫く戻れない。
仕事も休ませたいが、お前はそれを嫌がるだろう。
なら、千春さんにお願いするのが一番だからな」
「ちょっと待って、そんな勝手に……!
社会人なんだからそんな私的な理由で休めないよ。
それに千春さんにだって迷惑かけられない……っ」
「……奏多からの指示だ。
千春さんも了承している」
「指示って……!
奏多は私の上司じゃない!」
意味がわからない。
私はグッと唇を噛み締めた。
奏多が指示ってどうして。
連絡はとれないって言っていたのに。
どうして直接言ってもらえないの。
「頼むから今は言うことを聞いてくれ。
俺も奏多もお前を守りたいんだ」
見つめた先にあるのは『お兄ちゃん』の顔をした兄だった。
泣き出したくなる気持ちを抑えて私は悔し紛れに視線を逸らした。
「……奏多に話をしたいって伝えて」
「……わかった」
兄は短く返事をした。
マンションに着くまで兄の表情はとても暗かった。