彼の甘い包囲網
「温まった?」

「あ、ハイ。
すみません……こんな夜更けに突然お世話になってしまって……」

お風呂からあがって、頭を下げる私に、お茶を用意してくれていた千春さんが微笑んだ。

「嫌だ、楓ちゃんたら。
私は楓ちゃんを既に妹だと思っているのよ。
何かあったなら守るのは当然でしょ?
原因が我が家の事情なんだから、私の方が迷惑をかけて申し訳ないわ」

「そんな……私はいつも甘えてばかりで……」


下を向くと、千春さんが用意してくれていたベビーピンクのルームワンピースを着た自分の足元が目に入った。

千春さんが現在着用しているワンピースの色違いだ。

姉妹ですもの、と嬉々として色違いを揃えてくれた千春さんの優しさが胸に沁みる。

「そんな顔をしないの、楓ちゃん。
奏多がそんな顔を見たら卒倒するわ。
いらっしゃい、髪を乾かしましょ?」

明るく話しかけてくれる千春さん。

私は手を引かれてソファに座った。

ドライヤーの温かい風が頭や顔にかかる。

千春さんの部屋は基本的な間取りは奏多の部屋にソックリだけれど。

シンプルに纏められた奏多の部屋よりも華やかな色の女性らしい装飾が多い。

奏多は簡素にポトス等の観葉植物を置いているけれど、千春さんは花瓶にトルコ桔梗等の花を活けているといったように。


千春さんのソファは白、奏多は黒。

千春さんの部屋は甘い香りがする。


千春さんを見て、千春さんの部屋にいると、奏多を否応なく思い出してしまって。

奏多に会えない現実に。

堪えきれない涙が頬を伝った。


「……楓ちゃん。
昔話をしてもいいかしら?」

カチリ、とドライヤーを切って千春さんはドライヤーを片付けた。

ノロノロと千春さんの動きを目で追う。

千春さんは湯気のたつマグカップを二つ持って、テーブルにコトリと置いた。


「ロイヤルミルクティー、よかったら飲んでね。
胸が痛い時は甘いものを、ね?」

「いただきます……」
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