彼の甘い包囲網
「大体、相手のために自分が身をひく、とか自分が悪いなんて思うのは違うわよ。
まあ、そういう私も人のことは言えないんだけどね……」

「え……?
まさか杏奈さん、好きな人がいるんですか?
……まさか奏多を……?」

「違う、違う!
何で蜂谷さんが出てくるの?
全然違う人よ。
ずっと一緒にいたからわからなかったんだけどね……急に大人になっちゃって私よりもずっと先を歩いているの。
でも、優しいところや思いやり深いところは小さい頃と変わらなくて、なんて思ってたら好きになっちゃってたの。
まあ、向こうは何考えているのかわからないんだけど」

そう言って笑う杏奈さんはとても綺麗だった。

「杏奈さん……私、杏奈さんの恋、応援します!」

拳を握って話す私に杏奈さんは苦笑する。

「……ありがとう、でも今は先に楓ちゃんのことよ。
私のことはそれから、ね?」

「……はい。
あのっ、私、瑠璃さんと……できたら二人で話したいんです。
噂とかじゃなくて直接話して自分の耳で瑠璃さんに聞いてみたいんです」

「そっか、そうだよね……でも大丈夫?
恐くないの?」

杏奈さんは心配そうな瞳を向ける。

「き、緊張はしますし、そもそもきちんと話せるかはわからないですけど……」

「そっか……うん、それなら。
私が瑠璃に話があるって言って今日就業後に呼び出すから、二人で話して。
念のため涼にも話はしておくわ」

そう言って杏奈さんは頼もしく返答をしてくれた。

私も頷いてランチを堪能した。

< 184 / 197 >

この作品をシェア

pagetop