彼の甘い包囲網
「……馬鹿馬鹿しいわね……」

氷のように冷たい声。

瑠璃さんの背後にあるブラインドの隙間からは茜色の空が僅かに見える。

カチン、と冷えた空調が更に冷気を増した気がした。

「わざわざそんな下らないことを伝えに来たの?」

瑠璃さんの瞳が私を射抜く。

「……私とあなたの立場の違い、わかっているの?
ううん、奏多くんとあなたの。
何にも知らない、できない、世間知らずの女の子が出る幕はないのよ。
……今は奏多くんも可愛らしいあなたに興味があるかもしれないけれど。
どうせ続かない、すぐに捨てられるわ。
あなたを選ぶことに何のメリットもないもの。
私がどれだけ長い時間彼を見てきたと思ってるの?
どれだけ努力してきたと思ってるの?
将来彼を支える力を持っているのは私よ。
……あなたとは土台が違う」

淡々と終始落ち着いた声で瑠璃さんは話す。

話される内容は正しくて。

私には反論できる余地はなかった。

でもそれでも。

震える心を奮いたたせる。

頬は緊張で強張る。

「……それでも。
奏多は私を好きだと言ってくれました。
信じろと言ってくれました。
だから私は奏多を信じます。
瑠璃さんが仰有る通りです。
私はきっと奏多に相応しくない。
でも、それなら奏多に相応しくなるように努力します。
だからどうか私が奏多に相応しくなるように教えてください」

一気に言い切って頭を下げた。

「……は……?」

タップリ一分間以上、瑠璃さんは瞠目して固まっていた。

それから。

「………フフッ、アハハ」

瑠璃さんはクシャッと顔を崩して笑った。

「やだ、もう。
何言っているの、あなた!
正気?
自分に嫌がらせをした相手に教えを乞うなんて……!
……本当に敵わないわね……」

綺麗な唇に指を添えて。

瑠璃さんはジッと私を見た。

「……私ね、あなたに高校生の頃、会ったことがあるの。
あなたは真っ直ぐ奏多くんを見つめていて、彼に臆することなく堂々としていた。
……驚いたわ。
彼の周囲にいた女の子は皆、何かしらの下心が透けてみえる目線、もしくは違う世界の人を見るような憧憬の目線ばかりだったのに。
あなたはそのどれとも違っていた。
……そしてそんなあなたを見る奏多くんの瞳は見たことがないくらいに優しかった」
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