彼の甘い包囲網
奏多は私を抱き締めたまま話してくれた。



……瑠璃さんとの婚約のこと。

元々口約束で特段重要視もしていなくて、放っておけば立ち消えになるだろうと放置していたこと。

それ以前に婚約、として成立しているつもりもなく、本気にしていなかったこと。

瑠璃さんの好意には何となく気付いてはいたけれど、応えるつもりもなく、当時遊んでいた女の子達の一人、といった認識で。

曖昧に放置した結果、瑠璃さんを傷つけてしまった自身の浅はかさを奏多は悔いていた。


「……俺、自分から告白した女の子って楓だけなんだ」


私の肩に顔を埋めながら奏多が言った。

「告白してくれていた女の子達にはきちんと返事をしたつもりだけど、瑠璃さんには告白される……とかそういうのがなかったし俺も敢えて言わなかったからな……ハッキリと婚約はしないって線引きすべきだったな」



美坂社長には電話で謝罪をし、奏多自身のけじめとして改めて後日謝罪に伺うらしい。

美坂社長に、奏多自身が望んだ婚約者の私を傷つけてしまったことを申し訳なく思っていると伝えてほしいと頼まれた、と奏多に言われた。

私が自身の会社の社員ということに驚いているとも。

今回の取引は、そういったしがらみとは別に、きちんとしたビジネスとして無事に契約が行われるとのことだ。

奏多の帰国と入れ替わりに蜂谷社長が調印に渡米しているとのことだった。


「……取り敢えず、一段落はしたんだ。
俺の未熟さが招いたことが多すぎて、楓には迷惑をかけたし傷付けて本当にごめん。
なあ、楓。
……今でも俺を好きでいてくれるか?」

いつもの自信に溢れた奏多とは違う不安そうな様子の奏多。

こんな奏多は初めてで、戸惑う。

だけど。

奏多が初めて見せてくれる姿に、私は安心した。

何でも出来て常に前向きで、自信満々で魅力に満ち溢れている。

そんな奏多は素敵で、憧れるし、大好きだけど。

どっちも変わらない奏多だけど。

奏多も人間だから。

何かに悩んだり迷ったり落ち込んで当然で。

その姿を奏多は私に見せたくないかもしれないけれど、弱みも辛さも悲しさも私は欲張りだから全部を見たいと思う。

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