彼の甘い包囲網
コンコン。

軽やかにドアをノックする音が聞こえた。

「は、はいっ……!?」

慌てて私は奏多の腕から離れようともがく。

気持ちが高ぶって、忘れていたけど、ここ……会社だった……!

恥ずかしい……それよりもどうしよう!

「楓、大丈夫だから」

すっかり立ち直った様子の奏多がいつもの表情で私を諭す。

「だ、大丈夫じゃないよ……!
ちょ、っと離してっ」

私を再びギュッと胸に抱き締め直して奏多はドアに向かって声をかけた。

「充希、入っていいぞ」

その声とほぼ同時に充希くんが会議室に入ってきた。

私は今だに奏多の腕に捕らえられたままだ。


「……落ち込んでいたんじゃなかったのか?
ああ、楓ちゃんに慰めてもらったんだな。
良かったね、見捨てられなくて」

「……うるさい、充希」

「無茶苦茶な帰国スケジュールに付き合ったんだ。
嫌味くらい言わせてもらうよ。
楓ちゃん、今回は大変だったね。
大丈夫だった?
疲れたでしょ?
はい、これ、楓ちゃんの荷物」

奏多の腕の中にいる私の姿に動じずに充希くんは私に鞄を渡してくれた。

……さすが充希くん、どんな状況にも冷静……。

「あ、ありがとう、充希くん。
鞄、よくわかったね……」


他社の人間が私物を持ってくるって……大丈夫なの、と私が疑問に思っていたことが予想できたのか充希くんはクスッと笑った。

「有澤瑠璃さんが会議室から出てきてすぐに永石さんっていう女性と有澤が来たんだよ。
で、渡されたんだ。
今日はもう帰っていいからって言付けと一緒に。
多分、有澤瑠璃さんが二人に連絡してくれたんじゃないかな。
少しだけ話をして二人とも戻って行ったよ」

……ちょっと待って……!

鞄を預かってくれたことは有りがたいけど、でも、そしたら私の恥ずかしい言葉とか告白とか全部、充希くんにも有澤さんにも杏奈さんにも筒抜だったんじゃ……!


は、恥ずかしすぎる!

「いやーっ!」

真っ赤になって叫ぶ私に、状況を確実に読んだ奏多がニヤニヤ、人の悪い笑みを浮かべた。

「まあ、俺への気持ちを他の男が聞いているっていうのは
あんまり嬉しくないけれど、まあ、いいだろ。
充希だし」

「み、充希くんだけじゃないでしょっ……!」

「いや、どうせ充希のことだから有澤達がいる時は、会話がもれないように、その給湯室辺りにいたんじゃないのか?」

バッと充希くんを見ると。

「勿論」

と、大きく頷かれた。

それでもいいものじゃない……。
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