彼の甘い包囲網
「楓、帰ろう」


奏多はそう言って私の手をとり、指を絡めた。

奏多の大きくて長い指が私を包む。

トクン……っ。

喜びに跳ねる鼓動。


「僕は一旦本社に戻るよ」

「ああ、じゃ、立川さんと戻れよ。
俺はタクシー使うから」

「ちょ、ちょっと奏多!
帰るって……何処に?
っていうかお兄ちゃんは?」

「柊も今は本社にいる。
楓は俺と一緒に俺の部屋に帰るんだ」

シレッと言う奏多。

充希くんは奏多に物凄く冷たい視線を向ける。

「楓ちゃんに酷いことするなよ。
柊が乗り込んでくるぞ」

「するか!
楓、行くぞ!
充希、柊に楓は俺の家に泊めるって伝えてくれ」

「え、あ、あのっ奏多っ」

あれよあれよという間に私は会社から連れ出され、タクシーに乗せられて、ここ数日千春さんとずっと過ごして、見慣れたマンションにたどり着いた。


奏多はタクシーの中でもずっと私の手を握っていた。

時折私を見つめる瞳が、頬に髪に触れる指がとんでもなく甘くて優しい。

私の鼓動が加速する。

頬の熱はもうひきそうにない。

千春さんにお礼を伝えに行きたいなぁと奏多に手を引かれながらエレベーターに乗り込むと。

奏多の腕の中に閉じ込められた。

塞がれた唇。

「……何、考えてる?」

長い睫毛に縁取られた紅茶色の瞳が私を射抜く。

私の唇から一ミリもない距離で尋ねられて。


「あ、ち、千春さんにお礼……」

「後でいいから」


バッサリ言われて。

噛みつくように口付けられた。


「ふっ……!」


それなのに侵入してきた舌はどこまでも優しくて。

私の歯を優しくなぞる。

背筋にゾクリと震えが走る。

逃げる私の舌をそっと捕らえて離さない。

角度を変える瞬間に。


「……愛してる」


呟かれた言葉は私の力を完全に奪って。

頭が真っ白になる。
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