彼の甘い包囲網
私がシャワーを借りている間に奏多は近くのベーカリーに行ってきてくれた。

焼きたてのクロワッサンとマフィン、温かいカフェオレをテーブルに並べてくれる。

浴室から出て、以前に奏多が買ってくれた、これまたフワフワピンク色の部屋着を着た私を見て、奏多が嬉しそうに目を細めた。

「可愛い」

胸がキュウッとなって、奏多の顔が直視できない。

照れくさくて真っ赤になってしまった素顔を隠すように、俯いて朝食をありがとう、とお礼を言うと優しく抱きしめられた。

フワリと感じる奏多の香り。

奏多の体温。




「楓、俺と結婚して」


席に着いた私に奏多は穏やかに、言った。

「え……?」

一瞬、言われた言葉を理解できずに固まる私。

瞬きをして奏多を見つめ返す。

ケッコン……?

差し出されたのはいつかの婚姻届。


「これ……!
ほ、ほん、き?」

私の頭が胸が忙しなく動き出す。

ドキン、ドキン、ドキンと加速していく鼓動がうるさい。

出した声は思った以上に掠れていた。

「楓と毎日を過ごしたい。
もうこれ以上離れて過ごしたくない。
今回みたいに楓を不安にさせて傷付けてしまうこともあるかもしれないけれど、俺の全部で楓を守るから。
俺の傍にいて、俺だけを見て、俺とこれからの人生をずっと一緒に歩いてほしい。
……俺のものになって」


ギュッとテーブルの上で握られた手。

真剣な奏多の瞳に。

胸がつまる。

言葉にならない熱いものが込み上げて。

奏多の綺麗な顔が滲んで見えない。


「愛してる、楓。
……初めて出会った日からお前に惹かれてた。
お前の顔を毎日見ていたいんだ。
もう充分待ったから。
もう待ちたくない。
一緒に婚姻届を出しに行こう」


パタパタパタ……。

瞬きと共にテーブルに落ちた涙の粒。

奏多が長い指で私の涙を優しく拭う。


「楓、返事を聞かせて……?」

妖艶さを纏った眼差しが私を真っ直ぐに見つめる。

逃れられない熱を孕んで。

「わ、私でいいの?」

涙でグズグズの私の声。

「勿論。
お前が欲しい」

奏多はフワリと甘い笑みを浮かべた。

その温かい眼差しに胸がいっぱいになって涙が止まらない。

「は……い。
よろしく……お願い……します」

「楓……!」

素っぴんの泣き笑いみたいなグチャグチャな顔の私を、奏多は立ち上がって、ギュウッと抱き締めてくれた。

「ありがとう。
お前が俺の一番の宝物だ。
幸せになろうな」


こんなに私を幸せな気持ちにしてくれる人は奏多しかいない。

胸が痛くなるほど大好きな人も奏多しかいない。

私は奏多の腕のなかで、長い間、嬉し涙を流した。

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