彼の甘い包囲網
走り出した車の中で。

私は黙って流れる景色を見ていた。



緊張している、というより現実感がなかった。

昨日まで全く気配すらなく、思い出に置き換えようとさえしていた奏多が突然現れて。

彼が運転する車の助手席に座って、自宅まで送ってもらってるなんて。

想像すらしなかった。


革張りの車内は華美な装飾もなくシンプルだった。


「……何でお前、何も喋らないの。
さっきの女達が気になる?」

「……何で急に帰ってきたの」


質問に質問で返す私に。

ハハッと短く奏多は笑った。


「約束通り四年経ったから。
お前に会って、お前を捕まえるために帰国した」


視線を正面の道路に向けたままで。

まるで天気の話をするかのように淡々と話す奏多。

その様子に私の頭も冷静になっていく。



「……私は奏多には捕まらない」

「まだ言ってんの、それ」


呆れたように苦笑して奏多が言う。


「……何で今更、私に構うの。
アメリカにも綺麗な人はたくさんいたでしょ?
奏多ならモテたでしょ?
……四年前とは違うんだよ、奏多も私も」


……こんな言い方をしたいわけじゃない。

だけど、何を話せばいいかわからない。

四年間、放っておかれて。

帰国したら追いかけられて。

奏多が何を考えているのかわからない。

奏多を見ずに俯きながら話すと。


グイッと顎を掴まれた。

そして。


私の唇に強引な唇が押し当てられた。
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