彼の甘い包囲網
バンッ。

自宅のあるマンションの前で。

荒々しく車から降りた私を。

奏多が後ろから追い付いて抱き締めた。

シトラスの香りが色濃く漂う。


「……離して！」

お腹にまわされた手は、もがいてもびくともしない。

「なあ、何でそんなに不機嫌なんだ？
俺は帰国して一番に楓に会いに来た。
お前に一番最初に会いたかったから」



奏多の言葉に胸がキュウッと締め付けられた。

忘れていた胸の痛みが私を襲う。


「……俺、何か間違っているか？」


落ち着いた奏多の声。

お腹にまわされた手から、背中から、奏多の体温がジワリと伝わる。


「間違っているよ……！
連絡するって言ったくせに！
お兄ちゃんには連絡していたくせに！
私には連絡しなかったじゃない……！
なのに、急に現れて勝手なこと言わないで！」


吐き出した言葉はずっと思っていたこと。

ずっと心の奥で燻っていたこと。


「奏多なんて、大嫌い！
私を、からかわないで……！
私が四年間、どんな気持ちで……っ。
もうこれ以上、振り回さないでよ……っ！」


感情が高ぶって目頭が熱くなる。

声に嗚咽が混じる。

胸が苦しい。

悔し紛れに唇を噛み締める。
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