彼の甘い包囲網
「……そんなに怒るってことは、楓は俺がいなくて寂しかった?」
明らかに面白がっている奏多の声。
奏多の問いかけがストン、と私の胸に落ちる。
……寂しかった?
私は、奏多に怒っていたの?
どうして?
連絡がなかったから?
私は……奏多に会いたかった……?
出逢った十六歳のあの日。
私の生活に奏多は強引に押し入ってきた。
顔を見ない、声を聞かない日はほぼないくらいで。
なのに。
奏多はいなくなった。
聞かされていたとはいえ。
知らされていたとはいえ。
奏多がいる時は。
私に構わないで、放っておいて、とも思った。
一緒に過ごす度に高鳴る胸が苦しくて。
向けられる笑顔が眩しくて。
与えられる言葉に戸惑って。
だけど。
いざ、一人になったら。
知らない場所で置き去りにされてしまった子どもみたいに。
迷子のような感覚が消えなかった。
足元が覚束無いような不安定さ。
毎日贈られたカードを見つめていた。
それを寂しいというのか。
悲しいというのか。
その気持ちの断定が私にはできなかった。
断定することが恐い。
この気持ちを何と呼ぶのか。
答えを出す覚悟が今の私にはまだ、ない。
「……寂しいって言えよ」
ほんの少しだけ困ったような声の奏多が耳元で囁いた。
「ち、ちょっと、だけ」
ブハッと奏多が頭上で吹き出す。
「もうっ……!」
クルン、と私を自分の正面に向かせる。
奏多は笑っても茶化してもいなかった。
私を見下ろす潤んだ綺麗な瞳は真剣で。
切ない色香を孕んでいた。
「……そんな顔、すんな」
ソッと私の前髪を長い指が軽く引っ張る。
「……イイコにしてたか?」
「……イイコって……」
私の額にコツン、と奏多が自分の額をくっ付けた。
奏多のサラサラの髪が私の顔にかかる。
カアアッと再び身体中が熱くなる。
奏多が私をキュッと抱き締めた。
……熱い。
身体中に感じる奏多の体温と香り。
こんなにも私を落ち着かなくさせるのに、こんなにも離れたくなくて、安心する。
明らかに面白がっている奏多の声。
奏多の問いかけがストン、と私の胸に落ちる。
……寂しかった?
私は、奏多に怒っていたの?
どうして?
連絡がなかったから?
私は……奏多に会いたかった……?
出逢った十六歳のあの日。
私の生活に奏多は強引に押し入ってきた。
顔を見ない、声を聞かない日はほぼないくらいで。
なのに。
奏多はいなくなった。
聞かされていたとはいえ。
知らされていたとはいえ。
奏多がいる時は。
私に構わないで、放っておいて、とも思った。
一緒に過ごす度に高鳴る胸が苦しくて。
向けられる笑顔が眩しくて。
与えられる言葉に戸惑って。
だけど。
いざ、一人になったら。
知らない場所で置き去りにされてしまった子どもみたいに。
迷子のような感覚が消えなかった。
足元が覚束無いような不安定さ。
毎日贈られたカードを見つめていた。
それを寂しいというのか。
悲しいというのか。
その気持ちの断定が私にはできなかった。
断定することが恐い。
この気持ちを何と呼ぶのか。
答えを出す覚悟が今の私にはまだ、ない。
「……寂しいって言えよ」
ほんの少しだけ困ったような声の奏多が耳元で囁いた。
「ち、ちょっと、だけ」
ブハッと奏多が頭上で吹き出す。
「もうっ……!」
クルン、と私を自分の正面に向かせる。
奏多は笑っても茶化してもいなかった。
私を見下ろす潤んだ綺麗な瞳は真剣で。
切ない色香を孕んでいた。
「……そんな顔、すんな」
ソッと私の前髪を長い指が軽く引っ張る。
「……イイコにしてたか?」
「……イイコって……」
私の額にコツン、と奏多が自分の額をくっ付けた。
奏多のサラサラの髪が私の顔にかかる。
カアアッと再び身体中が熱くなる。
奏多が私をキュッと抱き締めた。
……熱い。
身体中に感じる奏多の体温と香り。
こんなにも私を落ち着かなくさせるのに、こんなにも離れたくなくて、安心する。