彼の甘い包囲網
「ちゃんと……俺を待ってた?」


その言葉に。

その声に。

突如、涙が溢れた。

何故なのか、わからない。

私の涙に気付いた奏多が、額を離して。

唇で涙を掬う。



私はコクン、と。

小さく頷いた。

何も考えていなかった。

ただ、聞かれたことに当たり前のように反応した。

そんな自分に今更ながら驚いた。



奏多なんて知らない、待っていない。

大嫌い、と。

言い続けて、言い聞かせてきたことが。

違っていたんだと初めて気付いた。



フッと色気の漂う笑みを浮かべた奏多が私を胸に閉じ込めた。


「……待っていてくれてありがとう」


ハチミツみたいな甘い声で奏多は私に囁いた。

その言葉は私の心に沁みこんで。

甘い筈なのに胸が詰まって。

益々涙が止まらなくなった。



素直にありがとう、なんて。

そんなしおらしい言い方、奏多は滅多にしないのに。

そんな真っ直ぐな瞳で私を見ないで。

吸い込まれてしまう。

奏多に捕らわれてしまう。



熱が燻る綺麗な奏多の瞳がゆっくり閉じられて私の唇に奏多の唇が触れた。

奏多の熱が私の頑なな心をとかす。

言葉にならない気持ちが込み上げる。

唇の輪郭に沿うように触れる柔らかなキスはグッと深くなって。

長いキスになった。

< 35 / 197 >

この作品をシェア

pagetop