彼の甘い包囲網
「よう、奏多。
お帰り。
元気そうだな
っつーか、遅いんだよ」



帰宅した私を柊兄が仏頂面で迎えた。

数年ぶりの再会にしては二人ともアッサリした挨拶だ。

兄の視線が奏多と私の絡まったままの指で止まる。


「……お前、しつこいな……」

「そうか?」


シレッと返事をする奏多。


「何やってんだよ……。
電話に出ないと思ったら。
さっさと帰れ。
立川さんからお前が見つからないって散々連絡入ってんだよ」

「あ、忘れてた」


ウンザリした顔の柊兄を尻目に。

ポケットから出したスマートフォンを操作し出す奏多。


「楓、スマホ貸して」

「?」


言われた通りにスマートフォンを渡すと。

私のスマートフォンを操作して。


「俺の番号登録しといたから」


優しい面差しで私を見つめてスマートフォンを返してくれた。

ただ、微笑んでいるだけなのに。

どうしてこの人はこんなに魅力的なのだろう。


ドキンッ。


不意に見つめられて。

先刻のキスを思い出してしまった。


「楓?」

「……そうじゃなくて!
奏多、さっさと立川さんに連絡しろよ!
そんでサッサと帰れ!」

痺れを切らした兄が奏多を一喝する。

「うるせーな、柊」

「奏多のせいだね」

背後から久しぶりに聞く、落ち着いた声音が響いた。

「……充希」

ウンザリしたような奏多の表情。

「迎えに来たよ。
奏多の車は僕が運転するから、途中で立川さんと合流するから心配なく」

有無を言わさぬ充希くんの笑顔に奏多が盛大に眉をひそめた。
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