彼の甘い包囲網
充希さんに連行される直前。

奏多は私の頭をポン、と撫でた。

私を見つめる視線は何処までも優しい。


「……またな」


恥ずかしくなって俯いたままの私に。

クスッと笑って。

奏多は充希さんと兄と共に出ていった。


バタン。

扉が閉まって。


部屋に引き上げようとする私の背中に、戻ってきた柊兄が声をかけた。


「楓。
お前、奏多とどうなってんだ?」


振り向いた私の瞳に映る兄は酷く険しい表情をしていた。

母に似た、ドングリ眼が細められる。

兄と私が唯一兄妹としてよく似ていると言われる部分。

「……どうって……」

「付き合ってんのか、ってことだよ」

「……わからない」

「はあ?」

意味がわからない、と言いたげな兄。

「嘘だろ?
お前、あんだけ奏多に執着されてんのに。
……そのネックレスも奏多からだろ?」

指摘されて首もとをバッと隠す。


「……だって……そんな話、したことないから」


私の返事に。

一旦口を開いて、兄はガリガリッと軽く癖のある髪を掻きむしる。


「……あのさぁ、お前。
奏多の気持ちはわかってんだろ?」

俯く私。

「奏多はさ、お前も知ってるように、女には不自由してなかったんだよ。
奏多も馬鹿じゃないから、適当にあしらってたけど。
でもお前と出会ってからは他の女と一切、関わってないんだよ」


俺が知る限りな、と玄関ドアに奏多と変わらない長身を凭れかけながら淡々と兄は告げる。


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