彼の甘い包囲網
今まで出会った兄の友人達や兄とは違って、奏多と充希くんは紳士に見えた。

十六歳の女子をか弱い女性のように扱ってくれた男子は初めてだった。


兄を除いて高校三年生の男子は私から見たら十分大人に見える。


「楓、ちゃん?」


見上げると優しい微笑みが私を包む。


「綺麗な髪だね、お人形さんみたいだ」


スッと奏多が長い指で私の髪をすいた。


「おい、奏多!
楓に手、出すなよ!」

「……人聞き悪いな」


奏多が困ったように綺麗な形の眉をひそめる。


「お前は無駄に女にモテすぎなんだ、楓はダメだからな!」


柊兄が珍しく真剣に釘をさす。

いつもは私をジャジャ馬だの、女らしさがないだの散々罵るくせに。

そんな兄が焦るということは彼は相当モテているのだろう。

こんな色気のない中学校を卒業したばかりの私なんて範疇外もいいところだろうけれど。


「……酷いな」


警戒された、と茶目っ気たっぷりに笑う奏多に。

私は曖昧に微笑んだ。



「……見つけた気がする」



奏多が小さく呟いた声は柊兄がギャーギャー喚く声に掻き消され、私の耳には届かなかった。



私は知らなかった。

これが奏多の本性ではないということを。
< 4 / 197 >

この作品をシェア

pagetop