彼の甘い包囲網
「……寂しい、よ」


観念して、弱々しく呟いた私の声を聞いて。

奏多が私をギュッと抱き締めた。


「だったら……行くな」


初めて聞く声だった。

自信がないような弱々しい声。


ポスン、と私の肩口に頭を埋める。

艶やかな髪が私の頬を掠めた。

肩にかかる奏多の重み。


「……お前が俺の傍から離れることは耐えられない」


ツキンッと。

奏多が珍しく吐き出した弱音が私の胸に深く刺さった。

俺がいないとダメだろ、とか。

誰にレポート教えてもらうつもりだよ、とか。

俺様な発言を予測していたのに。


こんな態度は反則だ。

動悸が激しい。

絶対に今、私は顔が真っ赤になっている。

肩にかかる奏多の吐息がくすぐったい。

……顔を見られなくて良かった。

絶対に情けない顔をしているから。



首を縦に振らない私に、奏多は哀しそうな瞳を向けた。

諦めないから、と言い残して奏多は帰っていった。
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