彼の甘い包囲網
「……私って奏多の何なんだろうって思うの」

「ええ?
今更?」

柊兄と同じ反応をされた。


「……付き合って、とかも言われたことないし」


全てを知る友人達は微妙に表情を曇らせた。


「告白、されたわけでもないんだよね……」


独り言のように呟いた言葉は、少し離れた場所で騒いでいる男子学生の大きな声で掻き消される。


「でも尋常じゃないくらいに大事にされてるよね?
それはわかってるんでしょ?」


紗也の指摘に渋々頷く。

大事にしてもらっている、その認識は悲しいくらいにある。

というより、執着に近いものを感じるけれど。

強引だけど、私が嫌がることを奏多は絶対にしない。


「……本当に……私って奏多にとって何なんだろ……」


箸を持つ手を下ろして呟く私に。


「じゃあ、楓ちゃんは奏多さんをどう想って、どうしたいの?」


無邪気に鈴ちゃんが尋ねた。

その問いが真っ直ぐに突き刺さった。



『どう想っている?』



目の前がユラユラ揺れて。

さざ波のように胸がざわめく。

無意識に震えそうになる手は。

答えを知っているようだった。


「私から見たら楓ちゃんは恋をしているように見えるよ?」

バッと紗也を見ると困ったように肩を竦めた。

「だって嫌いな人のことでそんなに悩む?
嫌いだったらどう思われたって構わなくない?
寧ろ嫌われて万々歳」

あっけらかんと話す鈴ちゃん。


恋?

自分が動揺していることがわかる。

動悸が激しくなる。



「楓ちゃんが蜂谷さんのことを話す表情は紗也ちゃんが拓くんのことを話す表情によく似てるよ?」

「ちょっと鈴!」

紗也が恥ずかしそうに鈴ちゃんに言う。

「だって本当だもん。
ついでに言うなら紗也ちゃんを見つめる時の拓くんの眼と蜂谷さんが楓ちゃんを見る眼が似てるよ。
二人とも相手が大事で仕方ないって顔。
羨ましいけどなぁ、私なら」

ニッコリと邪気の無い笑顔で話す鈴ちゃん。

「だって相手にそんなに想ってもらえるなんてすごくない?
しかも自分が好きな人に、だよ?」

小首を傾げて微笑む鈴ちゃんは今までで一番大人びて見えた。

「……そうね。
私達のことはさておき。
まずは楓が奏多さんにきちんと気持ちを伝えるべきじゃない?」
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