彼の甘い包囲網
奏多に引っ越しをしないことを伝えてから初めて奏多に会った。
奏多に会うのは隣りに住んでいるのに久しぶりだった。
送ったメッセージの返事もなかった。
プライベートでしか見ない眼鏡にラフなデニム、パーカー姿。
レポート用紙を繰る長い指は相変わらず綺麗で。
眼鏡を外して、少し伏せた長い睫毛が頬に影を作る様子も変わらず色っぽい。
「奏多」
「ん、見せて」
シャープペンシルを器用にクルクル回す奏多。
「いいんじゃない。
じゃ、これ書いて」
スイ、と渡された薄い紙。
「ああ、うん」
何も考えずに受け取って記入しようと見たものは。
「……ちょっと!
何これっ!」
「何って、婚姻届」
「そんなの見たらわかるよ!
そうじゃなくて、何を書くの、これに!」
バシッと机に婚姻届を叩きつける。
薄い紙が翻る。
「は?
名前と住所と……」
至極当たり前に返す奏多に。
私はギリッと奥歯を噛み締めた。
「そうじゃなくて!
何の冗談かって聞いてるの!
これ偽物なの?」
そもそも婚姻届に偽物があるのかなんて知らないけれど。
見たこともない書類に焦って叫んだ。
「本物に決まってるだろ。
俺はもう書いたから」
ニッコリと王子様の様にきらびやかな笑顔で奏多は婚姻届をつまみ上げて、私の眼前に掲げた。
そこには確かに奏多の字で記入がなされていた。
『夫になるもの』が記載すべき欄に。
奏多に会うのは隣りに住んでいるのに久しぶりだった。
送ったメッセージの返事もなかった。
プライベートでしか見ない眼鏡にラフなデニム、パーカー姿。
レポート用紙を繰る長い指は相変わらず綺麗で。
眼鏡を外して、少し伏せた長い睫毛が頬に影を作る様子も変わらず色っぽい。
「奏多」
「ん、見せて」
シャープペンシルを器用にクルクル回す奏多。
「いいんじゃない。
じゃ、これ書いて」
スイ、と渡された薄い紙。
「ああ、うん」
何も考えずに受け取って記入しようと見たものは。
「……ちょっと!
何これっ!」
「何って、婚姻届」
「そんなの見たらわかるよ!
そうじゃなくて、何を書くの、これに!」
バシッと机に婚姻届を叩きつける。
薄い紙が翻る。
「は?
名前と住所と……」
至極当たり前に返す奏多に。
私はギリッと奥歯を噛み締めた。
「そうじゃなくて!
何の冗談かって聞いてるの!
これ偽物なの?」
そもそも婚姻届に偽物があるのかなんて知らないけれど。
見たこともない書類に焦って叫んだ。
「本物に決まってるだろ。
俺はもう書いたから」
ニッコリと王子様の様にきらびやかな笑顔で奏多は婚姻届をつまみ上げて、私の眼前に掲げた。
そこには確かに奏多の字で記入がなされていた。
『夫になるもの』が記載すべき欄に。