彼の甘い包囲網
「……何で……そんなこと」


絞り出した言葉は自分のものとは思えないくらいに掠れている。


「決まってるだろ、楓は俺のものだ。
絶対に誰にも渡さない」


ツキン、とその言葉が胸を痛める。

いつもと同じ言葉。

変わらない執着。

揺るがない強い視線が私を捉える。

身体が魅入られたように動かない。


「……奏多……何で?」


必死の思いで吐き出した言葉は素直な疑問。


「……私のこと、どう思っているの……?」


恐る恐る口にした言葉。

奏多が私に拘る理由。


それはただの独占欲?

ただの執着?

そこに想いはある?


自分の気持ちを伝えずに口にすることは卑怯だろうか。

奏多が口を開くまでの時間が永遠にも感じられる。

ドクンドクンと心臓が早鐘をうつ。

言い様のないピリッとした緊張が背筋を伝う。


「……じゃあお前は?」


返された質問。

身体が強張って。

グッと言葉に詰まる。

眼前には軽く眉間に皺を寄せた奏多の顔。

……不機嫌な表情すら綺麗なんてズルい。
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