放課後○○倶楽部
第一九話:今、このときを駆け抜けろ
 廊下を疾走する二つの影が角をアウトからインへと滑り込み抜けていく。ゆっくりとスローモーションのように動いていく人影はまるで一流のレーサーみたいだが、やっている事はかなり間抜けな事なのだが。

 ……暑いのによくやるね。

 ギャラリーの喝采を受け、デットヒートを繰り広げていた二人が煌めく汗をそのままに健闘を称えあっているのを横目で通り過ぎていた。


 廊下でデットヒートを繰り広げていたのは『雑巾掛けレース愛好会』のメンバーでギャラリーは一般生徒である。「廊下を洗浄、廊下は戦場」を合言葉に不定期で廊下で雑巾掛けレースを行なっている連中である。日々改良を繰り広げている雑巾を手に己の身体一つで駆け抜けていく勇姿は感動すら覚えるが、今の俺には邪魔な存在でしかなかった。

 表彰式を執り行っている横を通り過ぎ、俺は何気なく外を見ると中庭が目に入ってきた。

「ん? あれは律子ちゃんと……ママッキーさん?」

 そこには見覚えるのある二人の姿があったが、どうやら中庭で見た『ワンピースの女の子』を捜そうとしているようだが、何故か二人共真っ白なワンピースを着ているのが気になった。
 金網に囲まれた一本松の前で妙に目立つ格好だね、あれは。
 気になれば聞かずにはいられない俺は中庭まで歩いていき――
「何をしているのですか?」
 二人に声をかけた。

「ん? その声はトモ――」

 俺の存在に気付いたママッキーさんが振り返ったが、その顔は珍しく驚きで固まっていた。

「どうしたんですか?」
「それは私の台詞だって……なんだい、その格好は」

 と、俺を指差すママッキーさん。

「人の事は言えませんって」
「まだ私達の方がまともだぞ。なあ、リッコ―」

 隣にいる律子ちゃんに同意を求めるママッキーさんだが、当の律子ちゃんは驚きで完全に言葉を失っていた。まだ俺の女装に免疫がないらしく(あったらあったで困るが)、新鮮な反応を示してくれるのだが――
「……か、可愛いです」
 このズレた感想がなければ尚いいと思う今日この頃。
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